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【前編】紙とエコロジーについてのすこし真面目な考察



 
いま、環境問題への意識が高まっています。
 
パッケージの世界でも、環境負荷の少ない新素材の開発や
商品のリニューアルなど、日々新しい情報が更新されている状態です。
 
ただ、話題に上がる機会が増えるほど、誤った認識が広がる危険性もあるもの。
 
紙製品が見直されている近頃も、
パッケージメーカーとして紙業界にいる私たちから見ると
業界と一般の認識にギャップがあると感じる点が少しあります。
 
また、皆さんの中にも

「これは本当に環境にいいのだろうか?」
「この新素材は廃棄するとき何に分別するべき?」

などと、ふと疑問が湧くこともあるのではないでしょうか?
 
意識が高まっている今だからこそ、
すこし真面目になってエコロジーと紙を見つめ直してみました。
今回は前編・後編に分けてまとめていきたいと思います。
 

目次

 
 
● 紙は本当に環境にいい?
 

 
あらゆる素材が環境への負荷について多面的に評価され、選択される現代。
こうした動きの中で、伝統的な紙の環境に関する
誤った情報をもとにした素材間競争が行われていることも事実です。
 
たとえば、
「紙1トン生産するのに木を○○本使う」
という言葉を聞いたことはありませんか?
 
たしかに紙は木から作られますが、紙の原料となる木材は
計画的に植林(植林→保育→収穫→再植林)された木材のほか、
製材後の残材や間伐材など、紙の原料とならなければ燃料として燃やされるか、
他の使い道がなく廃棄されるものがほとんどです。
 
また、紙は原料である木の成長から、廃棄・焼却されるまで、
新たなCO₂を排出しないという考え(カーボンニュートラル)が認められています。
 

 
さらに、紙の原料となるセルロース(繊維)は天然由来の物質であり、
土壌や海洋に流出したとしても分解されることから
環境や生物に対し影響の少ない素材といえます。
 
 
● プラスチックのCO₂排出量
 

 
プラスチックからCO₂が排出される要素として
 

石油の発掘と輸送
 (石油発掘時のメタンの漏れ、燃料の焼却など)
精製と生産
 (石油の精製→ナフサ→エチレン・プロピレン→成形 のすべての処理でエネルギーが必要)
廃棄
 (リサイクルする、埋め立てる、燃やす、どの処理もエネルギーが必要)

 
が挙げられ、
それぞれの段階で排出されるCO₂量の合計は
プラスチック1kgあたり5kg程度といわれています。
 
また、国内の廃プラスチックのリサイクル率は18%にとどまり、
56%が熱回収(焼却による熱エネルギーの一部を活用する)となっています。
つまり、プラスチックは資源として循環できていないのが現状です。
 

2020年7月より開始されたレジ袋有料化以降は
「バイオマスプラスチック」「生分解性プラスチック」が注目されています。
 
「バイオマスプラスチック」は、
トウモロコシやサトウキビなど植物資源(バイオマス)を原料としています。
原料となるバイオマスは光合成によって二酸化炭素を吸収することから
紙と同様、カーボンニュートラルであると言われています。

※注意※
バイオマスプラスチックは植物から作られていますが、
自然環境中で分解されるというものではありません。

 
「生分解性プラスチック」は、
環境中で微生物によって水と二酸化炭素に分解されるプラスチックをいいます。
問題となっている海洋プラスチックごみや
マイクロプラスチックの解決策となるとして注目されています。

※注意※
「生分解性プラスチック」には、土の中でしか分解されないもの、
コンポストでしか分解されないもの、
海洋でも分解されるものなど、さまざまあります。

 
 
● パターン別 紙製品のごみの分別方法
 

 
日本の古紙回収率は82%、利用率は64%と、高いリサイクル率です。
しかし、紙の中にも古紙に混ぜてはいけないものがあります。
 

においがついた紙(芳香紙、洗剤・石鹸・線香などの紙包装)
古紙処理工程で脱臭ができず、紙に匂いが残ってしまいます。
 
カバンや靴などの詰め物
布地に加熱してプリントする際に使う「昇華転写紙」を利用されていることが多く、
特殊インクの影響でリサイクルした際に表面にカビ状の色斑点ができてしまいます。
 
食品カスのついた紙(ピザの箱など食べ物が直接入っていた箱など)
腐敗・異臭などの衛生上の問題があります。
 
圧着はがき
使用されている糊が完全に取り除けず、粘着物が機械や製品に付着します。
 
写真・アルバム・インクジェット用写真用紙(印画紙)
古紙処理工程で繊維状に分解できず、製紙原料となりません。
 
カーボン紙・ノーカーボン紙(複写用紙、宅配便の伝票など)
特殊なインクを完全に取り除けず、リサイクルした際に斑点が現れます。
 
レシート紙(感熱紙)
特殊なインクを完全に取り除けず、リサイクルした際に発色して斑点が現れます。
 
防水加工された紙
(紙コップ、紙皿、紙製のカップ麺・ヨーグルト・アイスクリーム容器など)

古紙処理工程で繊維状に分解できず、製紙原料となりません。
 
コーティング紙、ラミネート紙
(カップ麺のフタ、内側が銀色のお酒のパック、ガムの内側の包装紙など)

紙ではない製品が含まれ、取り除けなかった樹脂片がリサイクルした紙に付着し、
印刷不良を引き起こします。
 
紙製品でないもの
ユポやライメックスと呼ばれる合成紙やストーンペーパーなどは
選挙ポスターや地図に使用される、極めて紙に近い素材です。
しかしこれらは木材を原料としておらず、古紙として分別はできません。

 
 
● 紙製品へリニューアルした事例
近年、プラスチックを使用していたものを
紙製にリニューアルしたという話題が多く聞かれます。
 
有名なところでいえばネスレ日本の「キットカット」の外袋。
2019年9月より紙パッケージ化されています。
 

※画像はネスレ公式HPより。
 
こちらは新開発の紙素材を使用していて、紙ごみとして廃棄していいのだそうです。
 
 
貝印は刃以外ほぼ紙でできている「紙カミソリ」を販売されています。
 

※画像は貝印公式オンラインストアより。
 
1回使い切りのカミソリで、折り紙のように一枚の紙を組み立てて使います。
「2021年度グッドデザイン賞」、「2021日本パッケージングコンテスト」、
「経済産業省産業技術環境局長賞」などを受賞されています。
 
 
アツギはストッキングの主力ブランドのパッケージを紙製に。
 

※画像はアツギ内ブランド「ASTIGU」公式facebookより。
 
プラスチック製のPP袋とフック、セロハンテープを廃した仕様で、
取り出しやすく、伝線の心配も軽減されています。
こちらも2021年グッドデザイン賞を受賞されました。
 
 
紙の環境との関わりを知っているだけでも
選ぶとき、使うとき、そして捨てるときの
より良い判断の指針にできるのではないかと思います。
 
後編では、商品が市場に出回る前段階である
企画・デザイン・製造の時点から心掛けられることはないか、
印刷やパッケージ業に携わる者として出来ることを考えていきます。
 
後編はこちら